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modular j-invariant j(τ)


[2001.10.14]modular j-不変量 j(τ)


虚数乗法を持つ楕円曲線E/Cのj-不変量は、代数的数であることを証明する。ただし、全部を理解できたわけではない(イデアル論と類体論の知識が必要)ので、完全な証明ではなく、要点のみを述べる。

■同種写像
楕円曲線E1,E2の間の(Abel多様体としての)準同型写像φ:E1 ---> E2で、φ(O)=Oとなるものを同種写像(isogeny)と呼ぶ。
また、E1,E2は、準同型写像φ:E11 ----> E2で、φ(E1)≠{O}であるとき、同種である(isogenous)という。

楕円曲線E1,E2が同種であるとき、対応する準同型写像φ:E1 -----> E2は全射、つまりφ(E1)=E2である。

■虚数乗法を持つ楕円曲線
楕円曲線E上のn倍写像(n \in Z)は、[n]:E ----> Eは、準同型写像で[n]O=Oを満たす。
よって、楕円曲線Eの自己準同型環(自己準同型写像から成る環) End(E)={isogeny:E ----> E}は、Zを部分環として含む。
End(E)がZより真に大きいとき、Eは虚数乗法を持つという。

■微分形式
Eを曲線とする。E上の有理形微分形式(mermorphic differential forms)の空間ΩEとは、x in \bar{K}(E)に対する形式dxから生成されたbar{K}(E)-ベクトル空間であり、その元は、次を関係を満たすものである。
     (1)d(x+y)=dx+dy for all x,y \in \bar{K}(E)
     (2)d(xy)=xdy+ydx for all x,y \in \bar{K}(E)
     (3)da=0 for all a \in \bar{K}
ここで、\bar{K}はKの代数閉包(algebraic closure)である。

■不変微分
楕円曲線E:y2+a1xy+a3y=x3+a2x2+a4x+a6に対して、
     ω=dx/(sy+a1x+a3)=dy/(3x2+a2x+a4-a1y)
をWeierstrass方程式に対応した不変微分(invariant diffrential)と呼ぶ。

楕円曲線Eの不変微分ωは、零点も極も持たない。
さらに、ωは、任意の点Q \in Eに対して、Q-移動写像τQ(PをP+Qに写す写像)に対して、不変である。つまり、
     τQ*ω=ω
である。

■Λ12Cの格子とする。α \in CがαΛ1⊂Λ2を満たすとすると、αによるスカラー積
   φα:C1---->C2
   φα(z)=αz (mod Λ2)
は、明らかに正則準同型関数(holomorphic homomorphism)である。
これらの関数は、本質的に正則写像に限ることが分かる。

■(1)上記において、対応
   {α \in C; αΛ1⊂Λ2} ----> {正則写像 φ:C1--->C2 ただし φ(0)=0}
   α -----> φα
は、全単射(bijection)である。
(2)E1,E2をそれぞれΛ12に対応する楕円曲線とする。つまり、Λ=Λ12に対して
     g2=g2(Λ)=60G4(Λ),
     g3=g3(Λ)=140G6(Λ)
     EΛ:y2=4x3-g2x-g3
とすると、自然な包含写像(natural inclusion)
   {isogeny φ:E1 ---> E2} ----> {正則写像 φ:C1 ---> C2 ただし φ(0)=0}
は、全単射である。

■char(K)≠2,3とする。2つの楕円曲線が\bar{K}-同型であるのは、同じj-不変量を持つときに限る。

■整数環
Kを数体(Cの部分体)とする。Kの整数環(order)Rとは、Kの部分環でZ-加群(Z-module)として有限生成であり、かつR \otimes Q=Kを満たすものである。

■楕円曲線E/Cが環R⊂Cによる虚数乗法を持つならば、同型写像
     [・] -----> End(E)
で、任意のE上の不変微分 ω \in ΩEに対して、
     [α]*ω=αω for all α \in R
となるものが一意に存在する。
この場合、(E,[・])は正規化されていると呼ぶ。

■(E1,[・]E1),(E2,[・]E2)をRによる虚数乗法を持つ正規化された楕円曲線とし、φ:E1 ----> E2をisogenyとする。このとき、
     φ \circ [α]E1 = [α]E2 \circ φ for all α \in R
となる。

■楕円曲線を楕円曲線の同型類とみて、
     ELL(R)={楕円曲線E/C: End(E) \cong R}/C上の同型写像
       ={格子Λ: End(EΛ) \cong R}/相似変換
とする。

虚2次体Kについて、aをRKの非0-イデアル(ideal)または一般に非0-分数イデアル(fractional ideal)とする。
埋め込み写像a⊂K⊂Cにより、aCの格子と見なせる。虚2次体に対する分数イデアルの定義より、明らかに、aはrank 2のZ-moduleであり、実数体Rには含まれない。
よって、楕円曲線Eaの自己準同型環End(Ea)は、
     End(Ea) \cong {α \in C: αaa}
       = {α \in K: αaa} (a ⊂ Kより)
       = RK (aは分数イデアルなので)

よって、Kの分数イデアルaはRKによる虚数乗法を持つ楕円曲線を与える。
また、相似な格子は同型な楕円曲線を与えるので、aとcaはELL(RK)上で同じ楕円曲線を与える。

RKのイデアル類群をCL(RK)とする。つまり、
     CL(RK) = RKのイデアル類群
         = {Kの非0-分数イデアル}/{Kの非0-主イデアル}
とする。

aをKの分数イデアルであるとき、\bar{a}をaの属するCL(RK)のイデアル類とする。
これによって写像
     CL(RK) ----> ELL(RK)
     \bar{a} ----> Ea
が決まる。

さらに、一般的に、EΛ \in ELL(RK)を持つ格子Λと、Kの分数イデアルaに対して、積
     aΛ = {α1λ1+...+αrλr: αi \in a, λi \in Λ}
を定義できる。

■(a)ΛをEΛ \in ELL(RK)を持つ格子とし、a,bをKの非0-分数イデアルとする。
     (i)aΛはCの格子である。
     (ii)楕円曲線EaΛは、End(EaΛ) \cong RKを満たす。
     (iii)EaΛ \cong EbΛ iff \bar{a}=\bar{b} in CL(RK)

よって、以下で決まるような、ELL(RK)上のCL(RK)のwell-definedな作用が存在する。
     a*EΛ = Ea-1Λ
(b)(a)で定義されるELL(RK)上のCL(RK)の作用は、単純推移的(simply transitive)である。つまり、作用が推移的かつ各点の固定部分群が単位元のみから成る。 特に、
     #CL(RK)=#ELL(RK)
である。

■E/Cを楕円曲線とする。格子Λ⊂Cと、複素Lie群の複素解析同型写像
     φ:C/Λ ----> E(C)
     φ(z)=[\wp(z;Λ),\wp'(z;Λ),1]
が存在する。Λは相似(homothety)なものを同一と見なすと、一意に決まる。

■E/Cを楕円曲線、ω12をEに対応する格子Λの生成元とする。
このとき、以下の(1)または(2)のいずれかが成立する。
   (1)End(E) \cong Z
   (2)Q12)はQの虚2次拡大であり、End(E)はQ12)の整数環に同型である。

τ=ω12とする。 Λは(1/ω2倍写像によって)Z+Zτに相似であるので、ΛをZ+Zτで置き換えてよい。

R={α \in C: αΛ⊂Λ}とすると、R \cong End(E)である。 よって、任意のα \in Rに対して、整数a,b,c,d \in Zが存在して、
      α=a+bτ かつ ατ=c+dτ. ----- (★)
τを消去すると、
      α2-(a+d)α+ad-bc=0
となる。RはZの整拡大(integral extension)である。

ここで、R≠Zとする。α \in R-Zを選ぶ。
(★)より、b≠0。αを消去すると、
      bτ2+(a-d)τ-c=0.
よって、τ \not\in Rなので、Q(τ)はQの虚2次拡大である。
最後に、R⊂Q(τ)かつRはZ上整拡大であるので、RはQ(τ)の整数環である。

■楕円曲線E/Cが虚2次体Kの整数環RKによる虚数乗法を持つならば、j(E)は代数的数である。

σ \in Aut(C)、つまりσを任意の(C上の体としての)自己同型写像とする。
Eの自己準同型写像φ:E ---> Eに対して、 φσ:Eσ ----> Eσは、Eσの自己準同型写像である。 よって、End(Eσ) \cong End(E)である。

Eσは、EからEに対するWeierstrass方程式の係数をσで作用させて得られる。j(E)はその係数の有理式で表されるので、
     j(Eσ)=j(E)
である。
また、End(Eσ) \cong RK。よって、Eσは楕円曲線上の有限個のC-同型類の1つに入る。 楕円曲線の同型類はj-不変量で決まるので、j(E)σはσがAut(C)上で動く有限個の値しか取らない。 [Q(j(E)):Q]は有限であり、j(E)は代数的数である。


[参考文献]


Last Update: 2005.06.12
H.Nakao

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