The fun of Theory of Elliptic Curves
楕円曲線論の面白さ[2002.10.14]
楕円曲線論のどこが面白いかについて、入門書レベルで少し説明する。
楕円曲線は、種数(genus)1の代数曲線である。Weierstrass標準形では、
E: y2 = x3+ax2+bx+c
と表現できるが、例えば、
y2 = ax4+bx3+cx2+dx+e
x3+y3 = a
などの曲線も、ある双有理変換によって、Weierstrass標準形に変換すことができる。
種数0の代数曲線には、直線と円錐曲線(2次曲線)である円、楕円、放物線、双曲線がある。
有理係数の円錐曲線は1つの有理点が見つかれば、他の有理点は1つの有理数パラメータの有理式で表現することができる。
単位円
C: x2+y2 = 1 ----- (1)
上の1つの点(0,1)を通る傾きtの直線
L: y = tx-1 ------- (2)
と単位円Cとのもう1つの交点(x,y)を計算する。
(1),(2)より、yを消去すると、
x2+(tx-1)2 = 1
{(t2+1)x-2t}x = 0
x!=0より、x = 2t/(t2+1)となり、(2)に代入して、
y = 2t2/(t2+1)-1 = (t2-1)/(t2+1)
t=0の時(x,y)=(0,-1)、t→+∞のとき(x,y)→(0,1)となるので、(0,1)以外の単位円の点は、
{(t2-1)/(t2+1) : t ∈ R}
のように、x,yは1つの変数tのある有理式としてパラメータ表示できる。
もちろん最初に取る点は、(0,-1)以外の有理点でも構わない。
その場合は、パラメータ表示した有理式が少し変わるだけである。
(0,-1)は単位円の有理点なので、直線Lの傾きtを有理数とすると、円Cと直線Lのもう1つの交点も有理点となる。
逆に、(0,1)以外の円Cの有理点(p,q)と(0,-1)を通る直線(ただし、Cの有理点が(0,-1)の場合はCの接線とする)の傾き
t = (q+1)/p if p ≠ 0
= 0 if p = 0
は有理数になる。
単位円の有理点C(Q)は、
C(Q) = {(0,1)}∪{(t2-1)/(t2+1) : t ∈ Q}
のように、(0,1)を除いて、1つのパラメータt ∈ Qに関する有理式、つまり、Q(t)の元で表現できる。
よって、円Cの1つの有理点を見つけることができれば、残りの有理点も全て見つけることができる。
同様の方法は、係数が有理数である一般の円錐曲線についても適用できる。
また、放物線や双曲線の場合は、射影平面上の曲線として考えて、無限遠点も含めて扱うと便利である。
楕円曲線は3次(代数)曲線なので、1つの直線との交点は、(重複度を考慮して)3個である。
Q上の楕円曲線Eの有理点の集合 E(Q)には、この性質を使って、有理点同士の演算(+)が導入できて、Abel群になる。これをEのMordell-Weil群と呼ぶ。
E(Q)は、有限生成である[Mordell-Weilの定理]。
つまり、ねじれ点群と呼ばれる有限部分群Etors(E)と有限rank rの自由部分群Zrの直和になる。
楕円曲線のねじれ点群は比較的容易に計算できる[Nagel-Lutzの定理]。楕円曲線の自由部分群のrankや基底を計算することは、一般には難しい。
Eのねじれ点群E(Q)は、Z/NZ(N=1,...,10,12)かZ/2Z×Z/2NZ(N=1,...,4)の全部で15通りの中のどれかに限る[Mazurの定理]。
また、種数が2以上のQ上の代数曲線については、有限個の有理点しか持たない[Mordell-Faltingsの定理]。
楕円曲線の演算や有理変換などは、手で計算すると、少し(かなり)手間がかかるので、この部分はパソコン(計算機)を使うと良い。有理数演算や多倍長整数演算が可能なGNU Common LISPやrubyでプログラムを作成しても良いが、数式処理ソフトウェアであり、ライブラリが豊富なpari/gp,asir,Kashの方がより便利である。
楕円曲線の有理点を探すには、CremonaのmwrankやColin Stahlke, Michael Stollのratpoints-1.4cが便利である(残念なことに、万能ではない)。
アルゴリズムの工夫により、いろいろな楕円曲線上で、手計算では到底見つかりそうもない、高さ(有理点のx座標を既約分数m/nで表現したとき、max{|m|,|n|}である整数)が大きい有理点(Mordell-Weil群の生成元)をパソコンで具体的に見つけることができる(楕円曲線によっては、実用的な時間内には見つからないこともある)ことが、特に面白いところである。
参考文献
- [1]Joseph H.Silverman, John Tate(著), 足立 恒雄, 木田 雅成, 小松 啓一, 田谷 久雄(訳), "楕円曲線論入門", シュプリンガー・フェアラーク東京, 1995, ISBN4-431-70683-6, {3900円}.
- [2]Joseph H. Silverman, "The Arithmetic of Elliptic Curves", GTM 106, Springer-Verlag New York Inc., 1986, ISBN0-387-96203-4.
- [3]Jeff Achter, "On Computing the Rank of Elliptic Curves", May 1992, p1-48.
- [4]J. S. Milne, "Elliptic Curves", v1.01, August 1996, p1-158.
- [5]中川 仁, "楕円曲線について", p1-14, 1998.
- [6]小川 裕之, "楕円曲線の有理点、等分点、同種写像... 過去から現在へ --何が知られているか--", p1-29, July 7, 1999.
Last Update: 2005.06.12 |
H.Nakao |